ペッツバールの余韻を残すアメリカ製鏡玉

 Conley Portrait Lens F5 10in は、いまではほとんど目にすることのない古風なポートレートレンズである。

 20世紀初頭、アメリカで肖像撮影用として設計されたもので、構成はクラシックなペッツバール型。

 中心は驚くほどシャープだが、周辺に向かうにつれて像はゆるやかに滲み、渦を巻くようなボケが立ち上がる。

 この独特の収差こそが、当時のレンズ職人たちが意図した「描写の味わい」なのだろう。

 このレンズが登場した時代、写真界では“絵画主義(ピクトリアリズム)”の潮流が広がっていた。

 肌をやわらかく、光を包み込むように描く――そうした夢のような肖像を求めて、多くの写真師が軟焦点レンズを手にした。

 Wollensak の Verito Soft Focus がハリウッドの女優たちを撮るために使われたのに対し、

 Conley Portrait Lens は、地方の写真館で人々の“ささやかな夢”を写すために活躍していた。

 その描写には、華やかさよりもむしろ、どこか懐かしい温もりがある。

 なお、スキャンしたフィルムは、現像液が劣化していたのか、攪拌がいい加減経ったのか、ムラが目立っている。さらに、フィルムに埃が付着していた。